2013年3月1日金曜日

「メディカルKit R」に20歳で加入したら・・・お得なの?


日経に広告記事として「メディカルKit(キット) R」発売のお知らせが載せられていました。

抜粋した内容を以下に引用させていただきます。

開発の背景
 20代から40代くらいまでにかけては、相対的に入院するケースが少ないため、早めに医療保険に加入することを躊躇されるお客様が一定程度いらっしゃることが当社が行った調査で分かりました。

 一方で、入院リスクが高まる年齢に差し掛かってから、新たに医療保険に加入しようとすると保険料のご負担が増えたり、健康状態によってはご加入できない場合もございます。


と公表されています。
この開発の背景から、「メディカルKit R」は医療保険の必要性を感じていない若い人たちをターゲットにしていると考えられます。

「保険料が全額もどってくるのでお得ですよ!」と勧誘すれば、自分の将来に不安を感じている若い人たちも医療保険に入ってくれると保険会社はもくろんでいるのでしょう。

そこで私はFPとして20歳の人にこの保険に加入すべきかどうかの判断材料を提供することにしました。

分析の基本的なフレームワークは前回の投稿と同じです。
比較対象とした各保険の保障内容及び保険料はつぎのとおりです。
(表はクリックすると拡大します。)







基準となるのはライフネット生命の「じぶんへの保険」です。
この保険は純保険料(保険の原価)が75%と公表されています。

純保険料=2,828×12月×60年×0.75=約153万円

注意
60年は、20歳男性の平均余命です。

この153万円が入院及び手術の給付金として契約者に返される平均額となります。

この給付金を年齢ごとに累積してプロットしたのが、次のグラフの下側の青線となります。
(グラフはクリックすると拡大します。)


各保険は等しくこの金額を契約者に支払うものとして、保険料収入から毎年この金額を差し引き、残りを積み立てたとして、保険商品ごとに積立額をグラフにしています。
予定利率は1.5%としています。

「メディカルKit 」のピンク色の線を見ると70歳まで積立額が増え続け、ピーク時には約138万円となっています。

グラフよりこの金額は、70歳以降給付額が保険料収入を上回るため僅かに減少するものの、ほぼ保険会社の儲けとなります。

参考
健康還付金をなぜ70歳としたのかはこのグラフからよく分かります。70歳は積立金が最大となる年齢となるため、余裕を持って健康還付金をドカンと返せるのです。

「メディカルKit R」について70歳時点を見ると、

保険料累計額が約217万円
積立額が約229万円
給付金累計額が約84万円
健康還付金=217万円-84万円=133万円

契約者としては、この時点の利益として
給付金84万円+健康還付金133万円=約217万円(返戻率100%)

となります。

注意
保険会社では保険料の残りを全額積み立てることはなく、経費を毎年差し引きながら積み立てますから、本当の積立額はこの試算よりもかなり少ないと考えられます。

70歳時点で「メディカルKit R」と「メディカルKit」の積立額をグラフで比較すると、「メディカルKit R」が43万円ほど少なくなっています。

健康還付金の支払は保険会社としては「大サービス」のようです。

したがってこの保険の契約者が現状のまま50年を経過した場合、保険会社としてはあまり儲けにならないことになります。

さて前回と同様に「メディカルKit」+貯蓄 を考えて見ます。
積立額は月1140円、利率1.9%です。グラフの黒線が貯蓄額の推移状況です。

1.9%とは超長期債の現在の利回りです。

この積立により70歳時点で貯蓄額は約116万円となります。

「メディカルKit R」の健康還付金約133万円に比較し17万円下回っていますから、「メディカルKit R」の利回りは貯蓄よりもよいと言えます。

この原因は「メディカルKit R」の健康還付金には「メディカルKit」の積立部分の一部が当てられていると考えられます。

この状況では「メディカルKit R」は結構よさそうに見えます。

それでは保険会社がこの保険で儲けるためにはどのような状況が望ましいかを考えると、私の推測として契約者に途中で解約して貰うことをかなり期待していると思われます。

「メディカルKit R」の積立金は「メディカルKit」に比べ年々大きく積み上がっていますが、中途解約があった場合多少は解約返戻金があるもののかなりの部分は保険会社の利益となります。

これ以外に保険会社が儲かるのはインフレとなり長期金利が上昇する場合です。
長期金利が3%となった場合を次のグラフに示しています。
(グラフはクリックすると拡大します。)


3%ぐらいになると70歳時点で「メディカルKit R」は「メディカルKit」と同程度に儲かることになります。

参考
利率が3%の場合、70歳時点の貯蓄額は約160万円となり、健康還付金約133万円よりも27万円多くなります。


インフレ+中途解約を含めると「メディカルKit R」は保険会社としてはかなり儲かりそうです。

50年間という極めて長い期間について、金融のプロの世界では超長期金利として3~5%を設定するのが常識であり、そうした場合保険会社としては「メディカルKit R」は「メディカルKit」よりも確実に儲かると私は考えています。

ということはこの保険を契約した人たちは、ほとんどが中途解約せざるを得なくなることを前提としていると思われます。保険会社はかなりの確率でそのように期待をしているはずです。

参考
中途解約せざるを得ない状況とは、インフレにより銀行預金などの利率が3~5%にもなると予定利率1.5%の保険などばからしくてやってられなくなる状況です。
FPの基礎知識として、低金利の時は短期運用が原則となりますから、固定金利のまま50年先に保険料を戻すと言うこの保険は「信頼できない」と私は考えています。この保険を「お勧め」する人たちも信頼してはいけません。


したがって20歳の人への私の心からのアドバイスは、今は保険なんかより結婚資金準備を最優先にしてくださいということです。



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