2014年3月15日土曜日

通院保障はほんとうに必要なのだろうか?

アフラックを初めとして保険会社は「医療技術の進歩により入院日数が減り、通院日数が増えている。」と言っています。


本当かどうか調べてみました。


データソースは厚生労働省の「患者調査の概況」などです。

次のグラフは昭和40年以来の外来患者総数と入院患者総数の推移状況です。



数値は人口10万対(人口10万人当たり1年間に入院、通院した人数)となっています。(日本の人口を1.27億人とすると、人口10万対の数値×1270で実際の患者数が計算出来ます。)

左目盛りが「外来」患者数であり、平成23年患者調査では5784人でした。
右目盛りが「入院」患者数であり、平成23年患者調査では1068人でした。

長期的に見ると入院患者数は平成2年の1214人をピークに下がり始めています。

特に平成17年(2005年)以降、入院患者数の低下傾向が顕著となっています。

これは昭和50年以来、国民医療費が急増し、国家財政に深刻な影響を与え始めたため、厚労省は診療報酬の改定やベット数の規制などさまざまな手段により入院患者数を押さえにかかったためです。

国民医療費の状況(厚生労働省作成)


しかし入院患者数の伸びは押さえ込んだものの、図のとおり平成2年以降も国民医療費は伸び続けており、その主因は一人当たりの入院期間が長期化したことにあります。

入院期間が長期化した原因は、入院患者が高齢化し、本来は医療のためのベッドが介護のためのベッドになってしまっていたためです。(このような入院を社会的入院といいます。)

そこで厚生労働省は、病院内の介護療養病床の削減のため平成18年に医療制度改革関連法案を成立させています。

この法律により平成24年度末までに療養病床を38万床から15万床に激減させることとなったのです。(平成23年に民主党政権によりこの削減計画が凍結、先送りされています。)

この大改革により介護療養病床(23万床)は病院などから切り離され、代わりに老人保健施設や有料老人ホーム、ケアハウスなどの介護施設に転換される流れができたのです。

つまり姥捨て山状態の病院から本来の医療施設に戻そうとする改革なのです。

この改革により入院患者数が平成17年の1145人から平成23年の調査時には1068人と9.3%減少し、また入院期間も短期化しているのです。

この期間についてもう少し詳細に見てみます。


このグラフは平成8年以降の外来患者数の推移状況とその内訳の疾患別の通院患者数の推移状況を示しています。

外来患者総数は右目盛り、疾患別の外来患者数は左目盛りで見ます。

いずれも人口10万対(人口10万人あたりの年間外来患者数)で示しています。

外来患者総数は平成8年以降減少傾向を示しますが、平成23年調査結果では5784人となり、平成8年の5824人と同レベルまで上昇しています。

疾患別に見ると、外来患者数が最も多いのが消化器系の疾患であり、次が筋骨格系及び結合組織の疾患、循環器系の疾患となっています。



保険会社の論理から考えると、患者数の多い歯肉炎及び歯周疾患(消化器系)や骨折した患者(筋骨格系)が平成17年から医療技術が進歩したため入院期間が短くなり通院治療が増えたという説明になりますが、この説明は正しいでしょうか?

私にはウソ八百としか思えません。

だいたい、新生物合計は平成23年調査では175人しかいません。(グラフの黄線)
万が一新生物の治療において医療技術の進歩により入院患者が減り、外来患者が増加しているとしても、外来患者総数5784人の3%ですから、その影響は無視しうる程度でしょう。

これが現実のデータなので、保険会社としては通院保障を売るための根拠作りに苦慮しています。

アフラックが当初に使用した通院のデータを引っ込めた裏にはそのような事情がありそうです。

参考
アフラックが通院保障の必要性を説明した当初の文書は、
「医療技術の進歩などにともない、近年入院日数は短期化の傾向にあります。」
その後本質的な間違いに気づき訂正した文書が、
「医療技術の進歩や、医療制度の変化などにともない、入院日数は短くなる傾向にあります。」
私の分析では医療技術の進歩で通院が増えた割合は1~2%で、98%は医療制度の変化によるものです。

入院期間が短期化しているもう一つの原因として、「医療費適正化計画」があります。
そのネライは、とにかく国民医療費の伸びを押さえ込みたいということで、平均在院日数が最も短い都道府県を基準として、入院日数の長い県はそこに近づけるよう圧力をかけているのです。

ただし、入院期間が短縮されたからと言って治療中の患者を放り出している訳ではなく、無用な治療や検査を省き、入院治療の効率化を図ることが目的ですから、通院患者が増加する原因とはならないのです。

このように最近の入院患者数や通院患者数の増減は、主として医療行政により影響を受けているのであって、自公政権や民主党政権などの政策によって大きく変化しているのです。

参考
はっきり言って入院日数は厚労省がさまざまなインセンティブを病院に与えることでコントロールしているのであって、医療技術が進歩したからと言って単純に入院日数を減らすほど病院はアホではないのです。

したがって保険屋さんのいい加減な説明を真に受けて終身の医療保険に通院保障を付けてしまうと、保険料のムダとなります。

このことの裏付けとして次のデータをご覧ください。

東京大学政策ビジョン研究センター作成



このグラフは将来の患者数を予測したものですが、赤線で示された外来患者数は平成31年をピークに下がり始めるとしています。

つまり通院患者が増加するのはあと5年程度であり、その後は長期的に減少すると予測しているのです。

この予測が正しいとすると「通院保障」を使うチャンスもかなり減ってしまいます。

保険会社はそのことを十分に知っているので、減り始めるまでの5年の間に「通院が増えています。」と消費者を煽り立てて通院保障を売りまくっているのです。

そしてその通院保障は将来、通院する人が大きく減って来るので、保険会社に大きな利益をもたらします。


以上より私は通院保障はいらないと考えます。



保険や家計全般の見直し相談についてはこちらをご覧ください。