2010年5月20日木曜日

こんなに手厚い社会保険(その4)


4 労災保険

健康保険は、仕事以外の時間中に起こった事故や病気に対して医療給付されますが、労災保険は仕事中や通勤途中での事故や病気に対して国から給付が行われます。

主な給付内容は、

○業務災害に関する保険給付
・療養補償
・休業補償
・障害補償
・遺族補償
・その他(葬祭料、傷病保障、介護保障)

○通勤災害に関する保険給付

業務災害に関する保険給付と同様ですが、「補償」が付きません。
この理由は、業務災害が起こった場合、雇用主に安全管理の責任があるため、雇用主が従業員に対して「補償」しますが、通勤災害については、雇用主に安全管理の責任がありませんから「補償」が付きません。(ただし仕事の一部分として労災保険には取り込まれています。)

○二次健康診断等給付

定期健康診断等で血圧、血中脂質、血糖値、BMI(肥満度)のいずれの数値にも異常所見がある場合、無料で精密検査が受けられます。
これは、過労死を予防するため「脳血管疾患」「心疾患」に繋がる異常所見のある人について保険給付として二次健康診断を受けてもらうものです。
以下特に「補償」は付けませんが、業務災害も含みます。


【労災保険への加入】

労災は、1人でも労働者(アルバイト、パート、日雇等も当然に労働者となります。)を使用していれば強制加入となります。

労働災害については事業主に被災労働者に対して保障する責任があるので、事業主が保険者である国に保険料を支払うことになります。(労働者の負担はありません。)
被災労働者への給付は事業主に代わって国が行います。(実務は労働基準監督署)

小規模事業や個人経営の商店などは届出していないところが多いと思いますが、届出の有無に関係なく、労働者を使って仕事を始めたその日に労災保険は成立すると法律で定められていますから、業務に関わる事故がいつ起こっても労災保険から保険給付を受けられます。
労災保険からの給付を受ける請求手続きはこちらを見てください。

無届けで労働災害が発生し、労災保険から保険給付が行われた場合、雇用主には後からしっかりと保険料の請求が行きます。

労災保険の適用が除外されるのは、国・官公署の事業、船員、労働者が5人未満の農業・水産業及び林業(年間300人・日以下)だけです。

つぎの労働者以外の方の場合は任意加入が認められています。
第1種特別加入者: 中小事業主及びその従事者(労働者を除く)
第2種特別加入者: 一人親方、特定作業従事者、家内労働者等及びその従事者(労働者を除く)
第3種特別加入者: 国際協力事業団、国内事業(有期事業を除く)から海外の事業へ派遣される者


【労災の認定】

業務事故等については原因が比較的明確ですが、通勤途中の判定や病気、過労死については認定が難しくなります。
一般に「業務遂行性」「業務起因性」で判断されます。

業務遂行性: 事業主の支配下にある状態(勤務時間中など)で、命じられた業務に従事しようとする意志行動がある(私用ではない)こと。

業務起因性: 業務に内在する危険有害性が現実化したと経験則上認められる原因であること。(仕事中に隕石に当たって死亡しても労災認定されません。病気については仕事との因果関係の立証が難しく、過労死については一定の基準(注)があります。)

注:労働省労働基準局長通達
「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」
「精神障害による自殺の取扱いについて」

労災の認定にはかなりの時間がかかります。
労働基準監督署による事故調査などにより「業務遂行性」「業務起因性」が確認されることになります。
過労死(自殺)などの精神疾患の場合、労災の認定までに平均8.7ヶ月を要しています。
したがってその間の医療費は自己負担となりますが、後日労災の認定がおこなわれれば、医療費の全額が払戻しされます。

ただし、診療報酬(保険が適用される治療行為等)の全額が支給されるだけですから、差額ベッド代等の患者の要望による費用は自己負担となります。


【療養の給付】

指定病院等においてケガなどで入院治療を受けた場合、原則自己負担はありません。
療養の給付は一端治癒しても、後日再発した場合には、再度給付を受けることができます。


【休業の給付】

入院治療のため仕事に就けない日、またはケガ等の状況により仕事ができない日(賃金がもらえない日)について、4日目から賃金の60%が支給されます。(最初の3日間(連続していなくてもよい)については事業主に休業補償の支払義務があります。)

休業の給付に加えて休業特別支給金20%が上乗せされますから、合計すると平均給与の80%が補償されているためとても安心できると思います。

休業開始後1年6ヶ月を経過し療養中で、一定の障害がある場合は、労働基準監督署長の権限で休業給付が打ち切られ「傷病年金」に切り替えられます。


【障害の給付】

ケガ等が治癒し障害が残った場合は、障害年金(1~7級)が給付されます。障害が軽度(8~14級)の場合は障害一時金が給付されます。

ちなみに、障害等級1級の年金額は、平均賃金の313日分になります。
障害等級8級の場合の一時金は、平均賃金の503日分になります。
障害基礎年金や障害厚生年金から給付がある場合は併給調整されます。


【遺族への給付】

労働者が業務事故等で死亡した場合には、遺族年金が支給されます。(妻は無条件で、父母や夫などは60歳以上、子や孫は18歳の3月31日までのもの)
遺族年金は遺族(生計維持関係にあったもの)の人数により、1人のみなら平均賃金の153日分、2人なら201日分、3人なら223日分が支給されます。
遺族厚生年金が支給されても併給調整されません。


【介護の給付】

傷病年金又は障害の給付を受けており、常時又は随時介護が必要な状態で、現在介護を受けているときに支給されます。


○社会復帰促進等事業

保険給付ではありませんが、労災のおまけ給付としてつぎのものがあります。
・被災労働者等(遺族も含まれます。)援護事業
特別支給金、労災就労保育援護費、休業補償特別援護金

以上より、業務に係わる事故等については国と事業主から十分手厚い補償が受けられます。
事業主の経営状況にかかわらず、国が補償してくれますから、労災については個人で保険に入る必要はありません。
強いてあげれば、保険より「貯蓄」に励んでください。

なを、労災保険についてくわしくは、最寄りの労働基準監督署にお問い合わせいただくか、ホームページをご覧ください。