当時単品の医療保険はなく、入院給付金は生命保険の特約となっていて、しかも7泊8日以上の入院の場合にしか給付金は出なかったのです。
このためちょっとした短期の入院では給付金がもらえず悔しい思いをした方がけっこういました。
ちなみに私は40日間入院したことがあり、給付金でガッチリ儲けたのでビデオカメラが買えました。
参考
単品の医療保険(第3分野の商品)は、米国の対日圧力により外資は販売できました(アフラックのがん保険など)が国内生保については1996年の保険業法が改正されてから(実態は2001年から)単品の医療保険の販売が解禁されています。
第3分野の自由化とともに儲かる医療保険に内外の保険各社が怒濤のごとく参入し、その結果、7泊8日以上だった不担保日数が5日、3日、1泊そして日帰り入院まで保障するようになってしまいました。
新発売される医療保険はどれも「日帰り入院も保障!」「その日から」と声高にアピールしています。
「日帰り入院」は消費者が切実に求めている保障だから医療保険に付けるのはあたりまえと保険会社は考えているのでしょうが、実はその裏側には儲かり戦略が当然あるのです。
はたして「日帰り入院」は7泊8日の保障と比較しお得なのか検証してみました。
このグラフは中医協の報告書にあったものです。(中医協 総-1 23.11.25)
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ある月に退院した人たちがそれぞれ何日間入院していたのかを平成20年「患者調査」のデータをもとに作成されています。
1ヶ月間の退院患者数は合計106.4万人です。(0歳~90歳以上)
横軸は入院していた日数、縦軸はそれぞれの入院日数に対応した人数(単位千人)です。
例えば、グラフより退院した人の中で7日間入院(7泊8日)していた人が約5万1千人いたことになります。
横軸の目盛りは、0日が日帰り(0泊1日)、1日が1泊2日に対応しており、中央値(メジアン)8日とは8泊9日になり、106.4万人の真ん中の53.2万人目の人がこの中にいることになります。
このグラフを元に入院給付金(期待値)と保険料を試算してみます。
入院日額は1万円とします。
7日間入院(7泊8日)していた患者について、5.1万人に入院日額1万円×8日分が給付されたとすると、
給付金合計額=5.1万人×8万円=40.8億円
40.8億円を日本の人口1.26億人(12,600万人)に均等に分けたら、
平均値=40.8÷1.26=32.4円
となります。
また期待値として計算すると、7日間入院する発生確率は、
発生確率=5.1万人÷1.26億人=0.000405
期待値=発生確率×給付金額=0.0004×8万円=32.4円(平均値と同じ)
この結果より、入院給付金1万円の医療保険に加入すると、7日間(7泊8日)の入院では平均すると32.4円もらえることになります。(平均給付額)
参考
日本の人口1.26億人がすべて保険加入者とはなりませんが、被保険者数が100万人と考えた場合でも大数の法則より発生確率は同じとなります。
ただし、中医協のデータには0歳児や100歳の人また保険加入が困難な人も含まれていますから、保険診査により選択されることを考慮すると、この発生確率は多少低下するかも知れません。
期待値は全ての場合の総和なので、入院日数が0日から120日までの全期間について同様の計算をした結果が次のグラフです。
(クリックすると拡大します。)
グラフでは30日、60日のところで折れ線が枝分かれしていますが、30日型は30日を過ぎると、それ以降は30日分しか給付金が出ないので60日型や120日型よりも折れ線が下側(給付金が少ない)になってしまいます。
60日型も60日を過ぎると120日型よりも折れ線が下側になります。
中医協のグラフでは1日目が最大値となっていますが、このグラフでは入院日数に応じて給付額が増えるので、8日前後に期待値のピークがあり、前記計算のとおり32.4円となっています。
入院限度日数120日(120日型)について0日から120日までの全期間の平均給付額の総和を取ると、1,374円となります。
この金額が120日型の純保険料(月額)となります。
同様に60日型の純保険料は、1,292円、30日型では1,056円となります。
ちなみにライフネット生命の「じぶんへの保険(60日型)」では、20歳男性、入院日額1万円、終身払いとすると、保険料は2,297円ですから、純保険料を1,292円とすると原価率は56%ぐらいになります。
さて、「日帰り入院」について検討評価してみましょう。
日帰り入院は大腸ポリープなどの軽易な手術で行われつつありますが、まだまだ発生確率は高くありません。
発生確率と平均給付額は、
発生確率=3万人÷12,600万人=0.00024
平均給付金額=0.00024×1万円=2.4円
したがってこの2.4円をもらうためには、保険料としてじぶんへの保険では4.3円(1.8倍)を支払い、大手生保では8円(3.3倍)を支払うことになります。(この倍率は7泊8日の場合も同じです。)
しかし入院給付金をもらうためには診断書が必要ですから、診断書が8千円とすると、給付金を1万円もらっても実質は2千円の利益にしかなりませんから、平均給付金額は、
平均給付金額=0.00024×2千円=0.48円
この0.48円をもらうためにじぶんへの保険では4.3円を支払い、大手生保では8円を支払うので、得られる金額の9倍から17倍の保険料を払っていることになります。
これは保険会社がぼったくりをしているのではなく、契約する人が賢くないのです。
そもそも、日帰り入院は保険診療なら1~2万円(例:内視鏡的大腸ポリープ(2センチ未満)切除術15,000円)程度ですから、貯金から支払うのがもっとも賢い方法なのです。
それに日帰り入院を重視される方も、自動車保険(任意保険)では車両保険を付けると高いので、5万円の損害までは不担保(保険が出ない)として、保険料を安く抑えているのではありませんか。
車ではチョットしたへこみやキズなどの修理にも保険が使えるようにすると保険料が高く、また等級も下がってしまうので、皆さんは賢く不担保金額を設定し、なるべく保険を使わないようにしていませんか?
ですから保険の賢い使い方は、「ドカンと事故ったら」「大金が必要になったら」助けてくれる保険に限定することなのです。
わずかな給付金をもらおうとすると、そのコストはべらぼーに高いのです。
昔々の定期付き終身保険の入院特約が7泊8日だったのは、そのころの保険会社は経営も考え方も健全だったので、常識として保険を使うべき基準というものをちゃんと考えて設計していたのです。
消費者ニーズになんでも応えることが絶対に正しいわけではないと思います。
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